在庫管理の現場で実際に体験した話、その第2回です。
前回は、在庫がノートに鉛筆書きの正の字で管理されていた話でした。行方不明だった部品が思いもよらない場所から見つかり、ひとまず数は揃いました。
しかし、本当に困ったのはここからでした。今回は「在庫の数字だけでは足りない」という話です。
数字が合っていても、答えられないことがある
取引先メーカーの監査を控えていたある日、社長から言われました。
「材料の成分表はあるのか。役所から出せと言われている」
搬入業者から受け取っているはずですが、どこにあるのか誰も知りません。定期的にメーカーへ提出しているはずの書類も、控えが見当たりません。
在庫の「数」は数えれば分かります。しかし、その材料がいつ、どこから入ってきて、どういう性質のものだったかは、記録がなければ後から復元できません。
在庫に付いてまわる情報
この経験から分かったのは、在庫管理で必要なのは数量だけではないということです。
- いつ入荷したか……先入れ先出しの判断に使います
- どこから入荷したか……仕入先ごとの品質差や、問い合わせ先の特定に使います
- ロット番号……不具合が見つかったときに、影響範囲を絞り込めます
- 消費期限・使用期限……食品、化粧品、医薬品では必須の情報です
- どこへ出荷したか……回収が必要になったときに、追跡できます
これらは平常時には不要に見えて、問題が起きたときに一気に必要になる情報です。そして、そのときになってから集めることはできません。
トレーサビリティという考え方
入荷から出荷までの履歴をたどれる状態にしておくことを、トレーサビリティといいます。
食品や医薬品では法令上の要件になっている場合もありますが、それ以外の業種でも意味があります。
- 「この不良品はいつのロットか」が分かれば、回収範囲を限定できます
- 「この仕入先の商品だけ返品が多い」といった傾向が見えます
- お客様からの問い合わせに、記録をもとに回答できます
逆にこれがないと、問題が起きたときに全量を疑うことになります。回収の範囲も、対応の規模も大きくなります。
属性で在庫を分けて持つ
ゼータロジでは、同じ商品でも入荷日やロット、消費期限といった属性ごとに在庫を分けて管理できます。
同じ品番でも、入荷日が違えば別のレコードとして持ちます。そのため、先入れ先出しの状況をロット単位で把握できます。
出荷時にはどのロットを出したかが記録され、在庫の変動履歴として残ります。あとから「このロットはどこへ出たか」をたどることができます。
記録は、あとから作れません
この一件でいちばん堪えたのは、必要になった時点ではもう手遅れだったということでした。
書類を探し、記憶をたどり、関係先に問い合わせる。それでも埋まらない部分は残ります。
日々の入荷検品のときに、入荷日とロットをスキャンで記録しておく。それだけで、いざというときに答えられる状態が作れます。手間としては数秒の差ですが、必要になったときの差は決定的です。
業種によって、必要な情報は変わります
- 食品・サプリメント……消費期限、賞味期限、ロット番号。期限の近いものから出す運用が必須です
- 化粧品……製造ロット、使用期限。不具合時の回収範囲の特定に使います
- アパレル……色・サイズのSKU、シーズン。期限より、在庫の滞留期間が重要になります
- 機械部品・工業製品……材料の成分、製造日、検査記録。取引先から求められることがあります
- 医療・衛生用品……ロットと期限に加え、出荷先の記録が求められる場合があります
自社の商材でどこまでの情報が必要かは、「問題が起きたときに何を聞かれるか」から逆算すると判断しやすくなります。
ロット管理を始めるときの実務
いざ始めようとすると、次の点で迷われることが多くあります。
すべての商品に必要か
必要な商品だけで構いません。期限のある商品はロット管理、それ以外は通常管理、という使い分けができます。全商品に適用すると、現場の作業が重くなります。
棚はどう分けるか
フリーロケーションであれば、同じ商品の別ロットを別の棚に置いても管理できます。ただし現場での取り違えを防ぐには、ロットごとに棚を分けておくほうが確実です。
先入れ先出しはどう担保するか
引当の際に入荷日の古いものから割り当てる運用にします。ピッキングリストに入荷日と消費期限が印字されていれば、現場でも確認できます。
次回
第3回は、監査当日に指摘された「在庫が合わない本当の理由」についてです。
